2014年に“マタハラ”が『新語・流行語大賞』の候補に上がって以来、マタハラというワードは一般にもよく聞かれるようになりました。しかし、その意味やそれにまつわる問題点はまだ周知されていないのが実状です。
マタハラなんて自分には関係のない話、と思っていてはいけません。自分にそのつもりはなくても、知識がないことで無意識のうちに加害者になってしまう可能性も否定できません。また、女性が働きやすい環境を整えるということは、男女関係なく誰にとっても働きやすい、生産性の高い社会を生み出す結果になるのです。
今回は誰もが必ず知っておくべき“マタハラ”の基本知識を一緒に学んでいきましょう。
マタハラほど怖いものはない?妊婦を苦しめるマタハラの基本知識と対策を徹底解説!
1. 減らないマタハラの実態とは

■ マタニティハラスメントの定義
マタハラとは、『マタニティハラスメント』の略で、女性が妊娠・出産・子育てなどをきっかけに、職場において精神的もしくは肉体的な嫌がらせを受けたり、不当解雇・雇い止め・降格・減給などの不当な扱いを受けたりすることをいいます。
発言者の意図に関係なく(=そのつもりはなくても)相手に不快な思いをさせたり、尊厳を傷付けたりするとマタハラに当たり、「こういうことを言った、やった」という明確な定義が定められている訳ではありません。
■ マタハラの種類
マタハラには、“制度利用に対する嫌がらせ型”と、“状態への嫌がらせ型”があります。妊娠や出産をすることにより、「産前産後休業」や「育児休業」、「残業や深夜業の免除」等、さまざまな制度が利用できるようになります。これらは法律により定められており、女性だけでなく、男性も該当すれば当然に利用できる制度です。ですが、その「当たり前の権利」を利用することによって嫌がらせを受けたり、傷つく言葉を浴びせたりすることは、“制度利用に対する嫌がらせ型”マタハラに当たります。
“状態への嫌がらせ型”マタハラとは、妊娠・出産による影響で労働能率が落ちたり、体調が悪く仕事ができなくなったりすることに対して、嫌がらせを行うことを言います。
■ 実際のマタハラ事例
<事例1:マタハラによる流産>
私立幼稚園の教諭として勤務していた女性が、妊娠したことを園長に報告したところ、中絶の勧告や退職勧奨を受けました。女性は切迫流産、子宮頚管ポリープと診断されたため入院する必要があり、医師より絶対安静を言い渡されていましたが、同園より出勤の要請があったため出勤、その後流産してしまうことに‥。女性は同園と園長に対し未払いの賃金の請求と損害賠償請求を行いました。
<事例2:マタハラによるうつ病の発症>
歯科医院に勤めていた歯科技工士の女性が、第2子妊娠を上司に報告すると「また産休をとるの?」「自分の都合でこちらの不利益は考えないの」などと言われ、うつ病を発症しました。半年間休業したところで、就業規則に沿って退職通告があったため、女性側が「マタハラによるうつ病で退職は無効」として争うことになりました。
▼悪気の無い一言がマタハラになることも
【参考記事】『この発言アウト!? マタハラの被害事例からマタハラについて学ぶ』
■ なぜマタハラが起きてしまうのか
マタハラが言葉としては市民権を得ているものの、いまだ多くの事例が報告されている原因として、妊婦の体や心に対する理解不足や会社の支援制度や運用の徹底不足が考えられます。妊娠した女性の体調の変化や、それに対する配慮の必要性が十分に理解されておらず、周囲は “無意識に”または“悪意なく”傷つける言動を行ってしまうケースが多いのです。男性に限らず、出産経験のない女性や、妊娠・出産により休む女性のフォローをすることになる女性が、加害者になってしまっているケースも報告されています。
また、法律で認められているにも関わらず、会社の制度が追いついていない、もしくは制度そのものはあっても、とても利用できる雰囲気ではない職場も多く、まずは経営陣の意識改革が最優先だとも言われています。
2. 気になる!マタハラ対策について私たちがすべきこと

マタハラを未然に防ぐためには職場、ひいては社会全体でマタハラという問題に対して理解を深めていく必要があるのです。
社会の中で理解が広がっていけば自然とマタハラを防いでいくことにつながっていきます。まずは一人一人がマタハラ問題について知っていきましょう。
■ 妊産婦さんの身体や心の変化を理解する
妊娠初期に多くの妊婦さんが経験するつわりは、「船酔い・二日酔いが24時間ずっと続いている感じ」と表現されます。妊娠により変化する自分の体への戸惑いや、出産そのものに対する不安など、経験はなくても、自分の大切な女性(パートナー、姉妹や友達)がその様な状態だったら‥と想像すれば、どのように配慮すべきかが自然にわかるはずです。
■ マタハラ防止のための活動を知る
2017年1月、男女雇用機会均等法の改正を受け、マタハラ防止措置が義務化されました。それ以前から、事業主が妊娠・出産・育児休業等を理由として、解雇や減給などの不利益な取り扱いを行うことは禁止されていましたが、この改正により、職場内での妊娠・出産・育児休業などを理由とした嫌がらせを防止するための措置を講じることが義務付けられました。
▼一人一人の意識を変えていくことが大切
【参考記事】『マタハラは自己対策も必要!多くの女性を悩ますマタハラ問題に終止符を!』
■ マタハラについての制度を知っておく
マタハラ防止措置を受け、マタハラ相談窓口の設置や就業規則の改定などが企業の義務となりました。企業によって対応は異なりますが、マタハラを受けた時に相談できる窓口があるはずです。また、妊娠・出産に関してどのような制度を利用できるのか、就業規則も確認しておきましょう。
▼妊婦の権利は法律で守られています
【注目記事】『マタハラの法律について知っておいて損なし!マタハラ防止のために企業が変えていくべきこととは?』
■ 女性だけに限らず男性の意識改革も
女性が妊娠しても働き続ける場合、マタハラに遭った時の対処法を知っておくことはリスク管理としてもちろん大切ですが、男性も、不注意な言動により悪気は一切なくても加害者になってしまう可能性があります。これまで深く考えたことがなかった男性も、女性の妊娠・出産に対する意識を改める必要があるかもしれません。
■ マタハラが発生したらまず相談を
マタハラを受けた、マタハラを受けて悩んでいる同僚女性がいる場合は、まずは会社の人事部に相談です。ただ、場合によっては直接相談しづらい場合もあるでしょう。その場合は、『職場のトラブル相談ダイヤル』に連絡しましょう。全国の社会保険労務士が、労働問題や職場トラブルに関する電話相談や面談などを行っています。
▼これってマタハラ?と感じたらまず相談を
マタハラほど怖いものはない?妊婦さんを苦しめるマタハラの基本知識と、対策を徹底解説!
- 1. まだまだ知られていないマタハラの実態を知ろう
- 2. 社会全体で意識を変えていくこと
- 3. 妊婦さんでも働きやすい社会を目指そう
ライター後記
男女雇用機会均等法の施行から30余年、「職場における男女平等」が謳われて続けている日本ですが、2018年度の『世界男女格差指数』は、149か国中110位という結果でした。その背景には、働く女性の妊娠・出産・子育てに対する配慮のなさ、理解度の低さが影響していると考えざるを得ません。
“マタハラ”を単なる流行語として捉えるのでなく、その定義や問題点、実際に起きた事例やその対策を知り、性別など関係なく誰もが働きやすい社会を目指したいと思いませんか?