最近話題の妊婦にまつわる問題のひとつに、マタニティハラスメント(マタハラ)と呼ばれるものがあります。マタハラとは妊娠していることを理由に、職場で精神的または肉体的に嫌がらせを受けることを指します。
一説には約3割の女性が妊娠中にマタハラを受けたというデータもあり、実際に大なり小なり被害にあっているという人もいるのではないでしょうか?
妊婦は妊娠しているだけでも体調が優れないことが多いのに、外部の人間からハラスメントを受けるなんて、踏んだり蹴ったりですよね。
マタハラ問題は妊娠した人以上に周囲の人が理解しておくべきこと。マタハラについてしっかりと理解を深めていきましょう。
この発言アウト!? マタハラの被害事例からマタハラについて学ぶ
1. マタハラの実際の事例まとめ【職場編】
無意識の発言がマタハラにあたることも
実際にマタハラとはどんなことをいうのでしょうか?
主に上司からが多いようですが、最近では同僚からも被害を受けているような例もあります。
具体的な事例をひとつひとつ見ていきましょう。
■マタハラ事例①: 妊娠を理由に降格や解雇などを促される
妊娠報告をしたら「勤務態度が悪い」という理由で解雇された、「妊娠は自己責任」という理由で手当てをカットされたなど、妊娠したことによって不利益を被ることになった事例が多く存在しています。
中には新入社員が入ってすぐに妊娠したからといって、内定取り消しをした企業も…。(
このケースはその後解雇は不当とした訴えが認められ解雇は取り消しになりました)
妊娠を理由にこういった不当な処分を与えることは男女雇用機会均等法の9条に違反しています。
酷い場合には中絶を勧めてきたり、的外れな説教をしてきたりすることもあります。予定外の妊娠やおめでた婚などもあるので、ご年配の方はついつい言いたいことがあるのかもしれませんが、周囲がとやかく言うようなことではありません。
■マタハラ事例②: 妊娠中の体調不良などを理由に休んだ場合、嫌みを言われる
「この忙しい時期に休みやがって」
などといった嫌み。これもありがちなマタハラ事例ですね。
確かにそう言いたくなる状況もあるでしょう。でも悪いのは妊婦ではなく、人手不足の環境を改善していない会社側だったりしませんか?
つわりは妊娠初期から数ヶ月の間、酷いと出産するまで船酔いや二日酔いの状態が続くんです。
特に妊娠初期はつわりが酷いとトイレから一歩も離れられなかったり、立てなかったりと日常生活もままならないもの。1日が数日に思えるほど長く、終わりが見えません。
具合が悪くてもつわりに効く薬はないし、耐えることしかできないんですよ。
仕事どころではありませんよね。
男性には中々想像がつかないかもしれませんが、本当に人生の中でも上位にランクインする辛さなんですよ。
にもかかわらず休んだことに文句を言われてしまったら、本当にやりきれないですよね。
■マタハラ事例③: セクハラ+マタハラ
これは身体的特徴に対しての言動がマタハラやセクハラにあたる事例です。例えば「妊娠してから胸が大きくなったね」とか「お腹を触らせて」などですね。
これが仲の良い同僚や家族なら問題ないのですが、年配の男性や親しくないお局様に言われたらどうでしょう?明らかにセクハラ+マタハラですよね。
周りに助けてもらっている以上断り方や対応にも困ってしまうものです。赤ちゃんがいるからと言って他人の身体に触っていいわけではありませんよ。
■マタハラ事例④: 長時間労働当たり前のブラック企業
残業ありきで成り立っている会社はいまだに多くあるでしょう。
そんなブラック企業で働いていて妊娠したら、当たりが強くなってしまうかもしれません。
例えば「残業できないなら戦力外」とか「残業してくれる新人のほうが使える」などですね。
またブラック企業は大抵人手不足ですから、重労働な部署に回されたり上司だけでなく、同僚からも何かと嫌がらせをされてしまう可能性が高いでしょう。
■マタハラ事例⑤: グレーゾーンのマタハラ
明確に男女雇用機会均等法の9条に違反していたり、あからさまに不当な扱いをされていなくても、妊婦が不快に感じることはたくさんありますよね。
例えば「妊娠は病気じゃないから、普段通りの仕事をしてもらう」とか「入社から数年の間は妊娠しないで」などです。
確かに妊娠は病気ではありませんが、一人の身体ではなくなることです。当然身体もどんどん変化していくし、腰痛や坐骨神経痛などのマイナートラブルは出産しても続くほどダメージの大きなものもあるんですよ。
食べ物や行動の制限も増えるし、妊婦って想像以上に大変なんです。
「妊娠をコントロールしてほしい」というような発言をする年配の上司や勤続年数が長い女上司なんかもいるでしょう。でも妊娠はコントロールできるようなものではありません。
年齢的なことで今すぐにでも妊娠したいというカップルもいれば、思いがけず妊娠することもあります。
自分の人生は自分でプランニングするもの。会社のために生きているわけではありませんよね?
いつ妊娠するのか、何人子どもが欲しいのか、子どもを迎えるタイミングなどは全てパートナーと相談して決めることであって、必ずしも会社の意見を尊重する必要はありません。
他にも「女性は家庭に入って子育てと家事に専念したら?」なんていわれることもありますが、これも時代錯誤な考え方です。
確かに子育てや家事だけに専念できればベストかもしれません。でも女性の働きたいという意思はどうなるのでしょうか?それに現代社会の子育ては夫だけの稼ぎでは不十分なことも多々あるでしょう。
女性の雇用および産休や育休は法律で定められた立派な権利。それに他人がどうこういう権利などはありません。
全部が全部マタハラだ!というのはもちろんNGですが、本人がマタハラと感じればそれもマタハラなのです。
2. 気を付けなければいけないマタハラ3つの関門とは?
マタハラを受けても屈してはいけません
マタハラを受けてしまいやすいタイミングが3つあります。それは以下のとおり。
・妊娠報告のとき
・産休育休を取得するとき
・復帰するとき
それぞれどんなマタハラをされやすくなってしまうのでしょうか。
■妊娠を報告するとき
一番緊張するし、上司や同僚からも何かと言葉をかけられやすいタイミングが、妊娠報告するときですよね。
妊娠報告のときに起こりやすいマタハラは、解雇や退職をさりげなく促されること。具体的には「体調が悪くなったり突然休むことも増えるんじゃない?迷惑かける前に家庭に入ったら?」とか「育休を取得するなら退職の方向で進めたい」などです。
他にもみんな妊娠したら退職している会社だったりすると「前例がない」ことを理由に退職を促される場合も…。
すでに妊娠している状況でそんなことを言われてしまったら、どうしたら良いのか困ってしまいますよね。
しかし法律で定められている通り、妊娠を理由に辞めさせることはできないし、退職届けにサインするよう強要できません。
退職届けにサインをさせられそうになっても退職したくない場合はその場でサインせず、一度労基に相談したり弁護士に相談しましょう。
■産休・育休を取得するとき
産休・育休を取得することに対して、独身の方や男性は「ずるい」とか「羨ましい」というような発言をするかもしれません。
例えば「産休や育休中は働いてなくてもお金貰えるんでしょ?いいなあ」とか「子どもと一緒に過ごせてお金までもらえていいね」なんて悪気なくいってくる同僚も…。
こういった発言もれっきとしたマタハラの一種です。
心なく羨ましがる人たちにとっては「数ヶ月出社しない」ということしか見えていないのでそういった発言がでてくるのでしょう。
気持ちはわかりますが、子育てや妊娠出産は実際に体験しないとその辛さがわからないものなんですよね。「正直働いている方が良い」というママの声をあちこちで耳にしますよ。
あまりにひどいようなら社内の相談窓口に伝えて、上司から発言に注意するよう促してもらっても良いでしょう。
■職場復帰するとき
最後の関門は復帰するタイミングです。妊娠中も何とかやり過ごし、産休育休も無事取得でき、いよいよ職場復帰と話し合いにいったところ、遠回しに退職を促されるマタハラが…。
理由としては「育児と仕事の両立は無理」とか「組織改正によって産前に担当していた職種がなくなってしまった」などが挙げられます。ここまできたのに最後の最後でとんでもない落とし穴ですよね…。
復職するつもりでいろいろプランを立てているのに、一から就活を始めるとなると子どもがいてはとても難しくなってしまいます。
法律上では産休育休から職場復帰する際は「現職または現職相当の職に復帰させるよう配慮を行うべき」という旨の文言があります。(育児・介護休業法22条)
しかし法的拘束力はなく、あくまでも配慮を促しているだけなので復帰を強制することはできません。
しかしこの場合も退職勧告に応じる義務はないので、退職したくない場合には弁護士や労基に相談してみましょう。
■マミートラックとは?
妊娠中の方や子どもがいるママでもあまり聞きなれない言葉かもしれませんね。
マミートラックとは、仕事と子育ての両立はできても昇進や昇給からは縁遠くなってしまう状況のこと。
産休育休を経て無事に仕事復帰できたとしても、昇進や昇格は望めず責任ある仕事を任せてもらえない状況に陥っているワーキングマザーは多いもの。
しかし時短勤務や早退の可能性が0ではないワーキングマザーよりも、残業やフルタイム勤務が当たり前である独身の社員を昇進させるのは、会社からすれば当然ですよね。
短時間勤務だと責任ある仕事を任せてもらえなかったり産休以前に比べると「やりがいがない」とか「モチベーションが保てない」という気持ちになってしまうのも無理はありません。
かといって責任ある仕事を任せても時短勤務だったり、体調不良で早退となってしまえば当然信用を失ってしまったり、損失をもたらしてしまう可能性もあるでしょう。
会社も慈善事業ではないので、折り合いをつけるのはなかなか難しいところですね…。
▼権利を守るためには法の仕組みを知ろう
【注目記事】『マタハラの法律について知っておいて損なし!マタハラ防止のために企業が変えていくべきこととは?』
3. マタハラを受けてしまった場合
相談できる場所はいくつもあります
もし今いる職場でマタハラと感じるようなことがあった場合、社内に設置されているハラスメントの相談窓口や人事部に相談してみましょう。
社内に相談できる部署がなかったり、小さな会社で相談しにくい場合には直接労働局に相談することも視野に入れておくと良いでしょう。
あまりにもひどい場合や明らかな損害を被った場合には、法的措置を考える場合もあるでしょう。
法的措置を検討したいなら、弁護士に相談するのも有効ですよ。
▼もし自分がハラスメントの被害者になった場合、取るべき行動は?
【注目記事】『職場でのハラスメントの相談は会社に言うのがホントに正解?その他の解決策と相談後のフローとは?』
その発言、マタハラかも!? マタハラの被害事例からマタハラ問題について学ぶ
- 1. 無意識にしてる発言がマタハラにあたるかも?
- 2. マタハラを受けやすいタイミングに注意!
- 3. 被害にあった場合は専門の窓口へ相談へ
ライター後記
マタハラには明確な定義はありません。だからこそ妊婦自身の気持ちによる部分が大きいんです。
ちょっとしたことも気になってしまい「妊婦様」なんていわれないように気を付けなければいけないかもしれません…。
それでも妊婦や子ども連れに対する社会の風当たりは本当に冷たい時代。少子化も当然といえますよね…。
妊娠中にストレスは大敵なので、できる限り平穏に過ごしたいのは当然のこと。もし法的措置をとるなら、パートナーとよく話し合いストレスがかかりそうなことはお任せできると安心ですね。