辛酸なめ子氏、歌舞伎町でホストと霊体験を語る
慣れない場所では、得意な分野の話題に持っていって、なんとか自分を保ちたい。そんな思いで、superstarのきらめく空間で、ホストに次々と霊体験を振ってみました。
「歌舞伎町の自殺の名所のビル、知ってます。霊感強い男の子と写真を一緒にビルを撮ったら、彼の写真だけ女の人が写ってました」と武丸たけるさん談。
「そういえば昔、織田無道とか宜保愛子っていましたよね。今の若い子は知らないけど」と海音優さん。
「知ってますよ。なつかしいですね」
「じゃあ同世代ですね」と、社交辞令かもしれませんが仲間に入れていただいて嬉しいです。織田無道世代っていうことで……。
「霊より人間のほうが怖いですね」と言うのはKE-SKEさん。
「そうそう、刺されたりとか。階段から落とされたこともありますよ」と同意するのは雪弥さん。「ヘルプでついたお客さんを送り出す時、突然暴れだして階段から落とされました。体が頑丈だったんで生きてます。一番最初の店は瓶で殴られたこともありますよ。初対面で何か気に触ったのか、おまえナメてんのか!って。昔のお客さんは厳しかったです。礼儀がなってないとバチコンって叩かれたり。テーブルひっくり返す人もいました。今はいい人ばっかりです」
ネオホスト系に学ぶ処世術
お客さんも変わればホストも自然体になり、髪を盛っているガッツリホスト系だけでなく、ジャニーズ系やK-POP系、そしてラフなファッションと髪型のネオホスト系が最近台頭してきているとか。ネオホスト系の黒咲零乃さんはスーツではなくダメージデニムを着用していました。このお店はキャラが豊富で、お客さんのあらゆる好みに対応しています。
「ホストはブランディングが重要。この中でその人だけっていうキャラを確立しないと」とKE-SKEさん。
お笑い芸人もやっているぽち。さんも「犬っぽい名前だね、と言われるとあざといけど犬のマネをしたりしますよ。ふりきったキャラがウケます」と言っていました。「隙間を狙って、何かを特化した方がいいです」
ホストの方々は外の社会でも生かせそうな処世術を身に付けているようです。
「ホストになって得たものはたくさんあります。人間力が上がる。メンタルが強くなる。自己分析力がつく。思考能力が上がる。空気が読める。物事の本質が見える。世渡りうまくなる……」というぽち。さんの体験談を聞くと、男子は皆ホストを経験した方が良い気がしてきます。日本経済も回りそうです。
私はそのお金の循環の外側にいます
「ホストは貢がれる、と思われていますが、ホストクラブというステージがあってこそ。この空間にお金を払ってもらっているようなものです。ディズニーランド同じです。決して女性をだましているのではありません。NO1にしたい、と思いを乗せて応援してもらっているんです。甲子園で地元の高校応援する感じ。それが毎月あるんです」とKE-SKEさん。
「毎月が甲子園」素敵ですね。洗脳されそうです。
「ここはお金の終着駅です。会社からサラリーマン、サラリーマンから女の子、女の子からホストクラブにお金が流れてくるんです」と感慨深げに語ったのは、明日キララさん。そのお金の循環に私は入れたことはないですが……。
歯がジルコニアのカリスマホストに釘付け
情熱大陸のようなホストの方々の熱い語りを聞いているうちに時間が過ぎてゆき、ついに登場したカリスマホスト、涼風つばきさん。その名の通り、宝塚の男役のような精巧で美しいルックス。スーツもシャイニーで、歯も白くてまぶしいです……。
「気付いちゃいました? これ、ジルコニアです。自分の歯を削ってかぶせてます。めちゃめちゃ痛かったです」ホストの仕事を愛していて、美意識が高い涼風つばきさん。完璧な見た目になるためには多少の痛みも厭いません。
カリスマホストから贈られた真紅のバラのプレッシャー
「少しでも僕のこと知ってもらえれば。ハッハッハ」という言葉も舞台上のセリフのようでキャラクターが一貫していてすばらしいです。
そして最後はいよいよシャンパンコール体験に。ここまででも刺激が強すぎて思考回路が停止気味だったのが、シャンパンコールで完全に無になりました。
まず、スモークがたかれ、サイレンのような音が鳴って、薄れゆく意識の中、死ぬのかな、と思いました。ホストが全員やってきて囲まれ何か叫びだしました。
臨死体験にも似た儀式。薄れゆく意識で悟る女の心のよりどころ
「ホイホイホイ!」「今夜は姫と!」「それそれそれ!」「ワッショイ!!ありがとう!」
かろうじて断片的に聞き取れた言葉です。全員で叫び手招きのようなジェスチャーをしている。何か促されているような、でも何をしていいかわからない。激しいイニシエーションを経て心が無になり、マインドフルネスへ……。こんな体験ができるなら、シャンパン代も高くない、そんな気がしています。今夜もどこかでシャンパンコールが行われていると思うと、小さな悩みもどこかへ行ってしまいそうで、ホストクラブは都会の女の心のよりどころです。
前編を読む
https://biyodanshi.com/20180126post-17632/
撮影協力
super star
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辛酸なめ子/漫画家・コラムニスト・イラストレーター。「週刊文春」にて13年間連載コラムを執筆するなどWEB、雑誌を中心に活躍中。「魂活道場」「あの世の歩き方」「女子校育ち」「大人のコミュニケーション術」など、著書は40冊を超える。