更新

「教育」と「育成」の違い――トップアスリートの指導者から学べ!

ロマゴンというアマ時代87戦全勝、プロ時代46戦全勝(38KO)だったボクサーが、先日、47戦目にして初黒星が付きました。誰もが敗戦の想像すらできなかった絶対王者に一体何があったのか――ひとつ明確なことは、デビュー時からの指導者(トレーナー)が昨年他界、つまり恩師不在で挑む初の試合だったということです。

「教育」と「育成」の違い――トップアスリートの指導者とは

1.トップを走る者の影には必ず有能な指導者がいる

自身の才能と能力だけでトップに登れるものではない!

 

冒頭でお書きしたロマゴンの話もそうですが、歴代最強ボクサーと言われるマイク・タイソンも、名トレーナーであったカス・ダマト氏が亡くなったことにより、精彩を欠いた試合展開、言わば上昇から転落の道を歩みました。

指導者は選手の命運を握っていると、そう思わずにはいられません。

それはボクシングだけに限らず、日本人メジャーリーガー進出を当たり前にした立役者、野茂英雄氏、つまり野球に関しても言えることで、彼の代名詞でもある『トルネード投法』を、当時の指導者だった鈴木啓二監督は、
「投球フォームを改造しなければ、いずれ通用しなくなる。その時に頭を私に下げてこられるかどうかだ!」
と痛烈批判をしていました。
もし彼の言う通りに(フォーム変更を)していれば、野茂英雄氏の人生が多少なりとも変わっていたことでしょう。

同じ野球で言えば、メジャーリーガーのイチローにも言えます。
オリックス・ブルーウェーブ(現オリックス・バファローズ)に入団したその年、1軍首脳陣に自身の打法(振り子打法)を批判され、そして何より土井正三監督との険悪な関係、もっと言えば先見性がなかったことにより、イチローは1軍に定着することはありませんでした。
ウエスタン・リーグ(いわゆる2軍リーグ)で、打率.366で首位打者を獲得したのにも関わらずです。
イチローが誰もが知っているあのイチローになったのは、デビューから3年後、2軍打撃コーチの河村健一郎氏のおかげであり、土井正三氏の後に監督となった仰木彬氏のおかげです。
つまり、指導者、トレーナーが変わり、イチローは世に出たということです。

トップを走る者の影にはこうして必ず有能な指導者がいるのです。

 

 

2.有能な指導者とは

相手の才能を見極め、伸ばす事や補う事まで緻密に計算ができる

 

もちろん「才能がある者は、誰のもとにいようといつか花開く」ということも言えます。
圧倒的な才能や能力があれば、いずれは、といったものですが…。

しかし、成長期においての指導の仕方で到達点が変わってくるのは明らかですし、それに誰もが足踏みのような人生は送りたくないことでしょう。
あるいは、「いずれは」の前に、指導者に見る目がなかったために、その道を断念してしまう人(自分には力がないと勘違いしてしまう人)が出てくる危惧も想定できます。

やはりトップを目指すアスリートに指導者は絶対に必要なのです。

ではアスリートの道を切り開く、先行きの明るいものにできる有能な指導者とは一体どんな人なのでしょうか?

 

 

3.教育と育成の違い

教育は教えるだけ。では育成とは?

 

まず挙げられるのは、有能な指導者は「育成」をしていることが言えます。
「教育」ではなく「育成」なのです。

「教育」とは知識を与え、基本技術の習得だけを目指したもの。
一方「育成」は上記にプラスして、育て上げる、つまり未知の可能性を見つけること、潜在している才能などを引き出し、伸ばすことに着目しています。

共に、「成長させる」という目的は同じですが、ゴールの場所(目標)が違うのです。
育成は「開花」させることがゴールなのです。

仮に時間割(スケジュール的なもの)がなくとも、乱暴な言い方をすれば何も考えなくても教育はできますが、育成に関しては、緻密なスケジュール、段階(課程の構成)、すなわち頭を使わないとできないのです。

加えて言えば、教えたことに対し、相手ができなければ、「何でできないんだ!こうしろと教えたろ!」と一方的な感情をぶつけることが教育であり、「どうしてできないんだろう。どういう教え方をすればいいんだろう」と考えること、悩むことが育成であり、そしてこれが有能な指導者の条件なのです。

 

 

4.有能な指導者は、自身の見る目・才覚に絶対を付けない

技術だけでなくメンタル面でも支えになる

 

「俺は見る目がある!」「俺なら出来る!」と信じること、自身に発破を掛けること、それはとても大切なことです。
ですが、有能な指導者に関してはやはりここでも、考え、悩んでいます。
絶対を付けません。

「私の見る目は間違っていない」と信じつつ、決して極端な考えにはならないのです。
自身の思念なり判断なりを常にもうひとりの自分が疑っているのです。
結果、これが正しいやり方! 指導方法! と決めつけないことにより、育成方法すらも成長させているのです。

 

 

5.箱根駅伝3連覇、青山学院陸上部、原監督の言葉

もはや敵なしのチームを創り上げた方法とは?

 

青山学院大学陸上競技部の原晋氏は、中国電力のビジネスマンから監督へと転じた人です。
箱根駅伝の予選会さえ通過できない弱小チームを、常勝チームに変えた敏腕指導者です。

その原監督の言葉から、有能な指導者としての様々なあり方が見えてきます。

 

★「業界の常識」を疑うこと

 

原監督は、強いチームをつくるうえで、まず必要なことは、「業界の常識を疑うこと」だと言っています。
様々な業界、業種には、そこだけで通じる常識があり、実はその常識は、世間の常識と比較すると、時に非常識と思えるものや時代遅れになっているものがあると。

だからこその指導、トレーニング方法の改革を原監督は成し遂げたのでしょう。

少なくとも、先に述べた、「トルネード投法」「振り子打法」など、今までに類を見なかったものに対し、つまり「常識」になかったものに対し、原監督は否定をしないはず、とこの言葉から分かります。

★強いチームを作るためには時間がかかる

 

強いチームをつくるための土壌、つまり環境を整えるには相応の時間が必要、と原監督は言います。
土壌が腐っていたら、いくらいい種でも芽が出ない、と。

なるほどな、と思う一方で、「時間がかかる」と分かっているからこそ、無駄のない方法を選び、少しでも早く土台をしっかりとさせることを目標にしてきたことがうかがえます。
原監督の目的の場所までの地図は非常に細かく、かつ、時には臨機応変に対応してきたはずです。
決して杓子定規の考えのもとで指導してきたわけではないはずです。

選手のモチベーションの維持、体調管理、故障者に対する切迫感の治癒を気に掛けながら、着実に、そして誰よりも早く、最強を目指したのでしょう。

★怒るより、諭しなさい

 

原監督は、「怒るより、諭しなさい」と言います。
ビジョン及び理屈です。そこに情熱を添えて選手に伝えることが大事だと。

人は「誉めて伸びるタイプ」と「叱って伸びるタイプ」と二分されますが、これらふたつのことを否定していることがこの言葉から理解できます。

どちらのタイプにしろ、ちゃんと理解させないと駄目なのでは?

ということです。
これも原監督が念頭に置いている、「常識を疑うこと」のひとつと言えるでしょう。

 

6.暴力について

「こんなに教えてるのに出来ない」だからって暴力は許されない!

 

指導者に必ず付いて回る「体罰」という問題。
様々なトップアスリートたちは「体罰」についてどう考えているのでしょうか。

 

為末大(陸上選手)

 

“モチベーションは無尽蔵に湧いてくると考えるのが日本的根性論。
でも現実は外から無理矢理懲罰で人を動かせば、いずれ人は燃え尽きる。

外からの強制で努力する人は大事なものを磨り減らしている。

指導者と生徒は役割の違いでしか無く、そこに上下は無い

出典:togetter.com

桑田真澄(プロ野球選手)

 

“昔は体罰が正しい教育とされたが、今はそういう時代じゃない。
痛みや恐怖心で根性が付いたと言う人もいるが、体罰が僕を助けてくれたことは一度もない。

出典:日本経済新聞

川内優輝(マラソン選手)

 

“(指導者から)押さえつけられるだけが競技じゃない。
陸上でも体罰や言葉の暴力で辞めていく選手もたくさんいると思う。

出典:スポニチ

室伏広治(ハンマー投げ選手)

 

“当然暴力には反対。
指導者は目的と目標をクリアにするべき。

出典:oricon news

松岡修造(テニス選手)

 

“昔と同じことをやって、今の子どもたちがついていくのか。まずいない。
暴力で従わせるのは、これほど罪があって楽なことはない。
本来はモチベーションを上げて目的意識をはっきりすれば自動的に子どもはやるはず。
ワクワク感を持たせてあげる指導に変わっていってほしい。

出典:oricon news

 

この他にも中田英寿氏(サッカー選手)、魔裟斗氏(レスラー)、が体罰反対を主張しています。

「体罰は悪いか?」「根性論はいけないか?」という問題に対しては、絶対的な答え、言い分は出せないことでしょう。(体罰は必要という賛成派アスリートがいる限り)
ですが、非常に安直だな、というのが正直なみなさんの感想ではないでしょうか。

「できない奴を殴る」

これはとても簡単な事です。

あらゆる方法を試し、試行錯誤し、そしてそこに「暴力」があるのならば(いわゆる愛のムチならば)、まだ分かります。
ですが、考えること、悩むことをせず、ただ、「できない=だったら殴る」と間違った公式のもとで暴力をふるうのは、有能な指導者でないと言い切れます。

ようするに、モラルがないのではなく、思想がないと言えるでしょう。

 

7.部下を育てる=自身の未来も変わる

言われた事をやらせるのはなく「考えて行動出来る」ように育てる

 

アスリートに限らず、サラリーマンの世界でもやはり指導者は大きな役割を持っています。
つまり上司(先輩)と部下の関係です。

「使えない奴だな」
とそう決めつけて、憤怒し、ストレスを抱え、ぶつくさとこぼすか、
それとも
「どうやったら、この新人を育てること、できる男にすることができるのだろう」
と考え、悩むか。
あなたの運命も、そして部下の運命を、ここで大きく変わります。

つまり、「使える人」に育てること、それは上司である、先輩であるあなたの手腕にかかっていて、さらに言えば、マネジメント能力でありプロデュース能力が試される時なのです。
ひいては自身も不満や怒りを抱え込まない状態へと導かれるのです。

 

 

8.これから社会人になる人へ

教わる体質では出世の道は険しいですよ!

 

青山学院の原監督は、
「相談してくる人」を育てることが大事、
と口にしています。
相談、それはやる気です。向上心のアピールです。
これから社会人になる人は、分からないことを無くすように努め、そして理解したことをより正確に、かつ俊敏に行えるようになることに力を注いでください。
これが出世への近道と断言します。

どうか、会社の、いや社会のトップアスリートになってください。

 

 

「教育」と「育成」の違い――トップアスリートの指導者とは

  • ・良き指導者は常に考え、悩み、最善を探す
  • ・良き指導者は「教育」ではなく「育成」をしている
  • ・指導者は教え子の未来を変えるほどの力がある

ライター後記

良い指導者に当たるか当たらないか、それは運がつきものです。部活動と社会は同じで、変えることが簡単にできません。「嫌なら辞める」がどちらも難しいです。このスポーツが好き、この会社が好き、でも――といった情況はとても辛いです。だからこそ指導者は、もっともっと「教えること」に責任感、使命感を持ってほしいな、と強く思います。

 

nokotta

いつか羽ばたいた教え子にいつまでも尊敬されるような人になろう!

読書が趣味。休日は喫茶店をはしごしながら本を読みまくります。

記事を評価してくれまへんか?

  • ええよ (2)

この記事をシェアしてくれまへんか?

RELATED POSTS / 関連記事